「東北大学白菊会第44回総会」は、5月27日(木)仙台国際センターを会場として開催予定でしたが、終息の目途の立たない新型コロナウイルス感染拡大を前に止む無く中止となりました。
昭和52年(1977年)に本会が発足してから44年。東日本大震災に見舞われた平成23年(2011年)、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた令和2年(2020年)に続き3度目の中止となりました。
毎年、総会では前年の解剖学実習に真摯に取り組み優秀な成績を修めた医・歯学生5名を対象とした「鹿野記念奨学奨励賞」、また臨床実習等の現場で心技ともに優秀な成績を修めた医・歯学生3名を対象とした「笠原賞」の授賞式を執り行っており、会員の皆様に向け授賞学生たちの声を直接お届けする貴重な機会となっておりますが、残念ながら授賞式は、今後の感染状況を見極めつつ年度内に別の形式で執り行うことになりました。
授賞学生は以下の通りです。おめでとうございます。
鹿野記念奨学奨励賞 (賞状楯、奨学奨励賞金7万円)
東北大学医学部医学科3年 佐藤 俊太さん〃 3年 田村 尚己さん
東北大学歯学部3年 鶴田 侑万さん
東北医科薬科大学医学部3年 山口 琢矢さん
〃 3年 鈴木 智貴さん
笠原賞 (賞状、奨学奨励賞金50万円)
東北大学医学部医学科6年 長田 公喜さん東北大学歯学部 6年 安保 沙羅さん
東北医科薬科大学医学部5年 鈴木 紅音さん
さて、総会では毎年、東北大学或いは東北医科薬科大学の教授陣による基調講演を行っておりますが、今年度は「会報しらぎく」の誌上にご寄稿をいただくことで基調講演に代えさせていただきましたので、その内容を再掲させていただきます。
東北大学の外科系手術手技研修について
教授 大和田 祐二

外科医が安全な手術を行うには、人体の構造を熟知したうえで、安定した手術手技を身に着けることが必要ですが、教科書やビデオ画像では立体的構造を完全に習熟することは困難です。さらに日進月歩の医療技術や医療機器の進歩と改良に対応するためには、実際の患者さんの体に近い、ご遺体を使った外科手術手技の修練が欠かすことのできないものとなっています。
東北大学では篤志献体会である東北大学白菊会の皆様からの全面的なご理解とご協力により、お預かりしたご遺体を、医師や歯科医師を目指す学生が人体の構造を学ぶための解剖学実習に加えて、学内外の医師の手術手技向上に資する研修に使用させて頂いております。
本学は平成二十四年に、日本外科学会と日本解剖学会が策定した「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」に沿った実践的手術手技研修事業(厚生労働省)の拠点大学に選定され、日本のサージカルトレーニング活動をその黎明期から支えて参りました。現在では東北地方のみならず全国の医師、歯科医師を参加対象とした研修を実施しております。

平成二十四年に『臨床医学の教育および研究における死体解剖のガイドライン』が公表されたのを契機に、厚生労働省は、外科系手術手技向上のための研修を実施・普及させる動きを加速するために、推進予算として同年より『実践的な手術手技向上研修』委託事業を開始しました。本学は事業開始当初より全国の主要拠点大学の一つとして、現在に至るまで、厚生労働省から事業費(事業運営費、設備充実費)を獲得し続けております。これらの支援をもとに、実際の臨床現場と同等の設備を用いて術野映像の共有や直接的な指導を介した、より実践的な手術手技研修が可能となりました。
平成二十四年度の手術手技研修は整形外科と神経外科の二診療科で実施されましたが、それ以降は、本研修に参加する診療科が順調に増加し、令和二度には十診療科により研修を実施しています。研修内容は多岐にわたり、例えば、外科手術による体への影響(侵襲)を軽減するための内視鏡を用いた食道がんや膵臓がんなど、さまざまな悪性腫瘍の摘出手術や、手術中麻酔からペインクリニックに至るまでの手技習得を目指した研修など、ほぼ全ての外科手術をカバーする専門性の高い研修プログラムを行っています。研修参加者数も当初の九十名から近年では約十倍近くに増加しており(図2参照)、全国津々浦々から基本から最先端の手術手技を習得するため、数多くの若手外科医師が東北大学の研修に参加しています(図3参照)。最近では、ご遺体を使った手術手技研修を行う大学が全国で増えてきましたが、本学のように充実した設備と研修内容を備えている大学は数少なく、全国の若手外科医にとって本学の研修は、高度な手術手技を、著名な外科医師からの直接的な指導を受けることができる貴重な機会になっています。


ご遺体を使用させていただくにあたっては、法律の遵守や高い倫理性が求められますが、本学の手術手技研修は、日本外科学会が定める「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」に完全に準拠しており、研修内容だけでなく倫理的にも、他大学のモデルとなる研修を実施していると自負しております。東北大学白菊会では、ご遺体を医学および歯学教育のための解剖実習以外の研修などに利用することについて、白菊会会員の皆様から生前の同意を頂くとともに、日本外科学会と日本解剖学会が定める「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」に準拠した研修が実施されており、私は解剖学を専門とする立場から、研修が倫理的かつ円滑に実施されるようお手伝いできればと思っております。
東北大学白菊会の皆様のご指導・ご支援をもとに、病に悩む患者さまに対して、新たな治療法や安心・安全な外科手術の提供するための一助になることを心から願っています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。